〜プロローグ〜


心の奥底の暗い場所。
果てしもなく深い場所。
 
誰一人訪れる者もない。
 
かつてあれほどまでに、暖かな光に溢れ、その光の下色とりどりの花々が咲き誇っていたその場所。
色鮮やかに、そして零れ落ちるほどの香りに満ち満ちて。
だが、二度と再び、花々が咲競うことはない。
 
疲れ切った心を癒す、美しくも優しき囀り。
青々と茂る木々のそこここから、聞こえてくる鳥たちの声。
高く低く、遠く近く。
もうあの時から、微かにも聞こえない、鳥たちの囀り。
聞こえないのはそう、一羽の鳥さえいないから。
みんな何処かへ行ってしまった。
かわりに聞こえてくるのは、耳障りなカサカサと枯れ葉の擦れる音ばかり。
 
光を浴びて、青々と輝いていた筈の木々。
ある時は、足元の花々を強すぎる陽の光から守るために枝葉を広げる。
またあるときは大粒の雨を受け止め、折れそうな花々を助けた。
木々を渡ることで、大気は風は、はより柔らかく全てを包むことが出来た。
けれど今は、梢には一枚の葉すら残ってはいない。
木々を飾るはずの葉は、一枚残らず枯れ葉となって地を覆っている。
 
 
 
この場所に佇んで見渡せば、目に映るのは朽ちた木々と、枯れ果て、手を伸ばせばその気配だけで崩れ落ちてゆく花々。
足元には厚く積もる落ち葉に、その下にあるものをもさえ押さえつけ、芽吹くことさえ許さない。
身体中にまといつく、腐臭さえ混じっていそうな饐えた臭いの大気。
ガサガサと耳障りな音さえも何時か、聞こえなくなった。
寒さが徐々に浸みてきて、この場所の全てのものを、残すことなく凍らせてゆく。
 
 
その場所の名は「Winter Garden」。